皆さんはセル画とデジタル画というのをご存知ですか?アニメを作る制作過程での表現方法のことをそれぞれ指しているのですがどういった違いがあるのか、また現在のアニメはどちらの画法が使われているのか、解説していきたいと思います。
結論を先に申し上げますと、現在はほとんどのアニメはデジタル画が採用されています。
ではなぜ、セル画は使われなくなってしまったのか?セル画を使うことによるメリットとデメリット、デジタル画のメリット、デメリットを解説していきたいと思います。
セル画とデジタル画の概要とメリットとデメリット
セル画とは?
セル画とはアニメの制作過程において、使われる画材「セル」とよばれる透明シートに描かれる絵のことです。透明シートの素材にセルロイドという合成樹脂が使用されていたことに由来します。
セル画のように輪郭や境界線をはっきり線で描き、色や影のグラデーションを単純化させ段階的に表現する絵のことはアニメ絵と呼ばれています。
デジタル画とは?
こちらは読んで字のごとくですが、セル画とは違い「パソコンで描画処理を行ったもの」のことを指します。デジタルでセル画の彩色や特殊効果を加えることができるようになりました。
セル画のメリット
1,独特な質感と風合い
・セル画は手書きで制作されるため、伝統的なアートの風合いがあります。筆のタッチや絵の具の質感がそのままアニメーションに反映されるので、独特な味わいが生まれます。
2,リアルな彩色
・セル画では、キャラクターや背景の各部分ごとのセルに違う色が塗り分けられます。これによりリアルで美しい表現ができるようになります。
3,手作業による表現力
・アーティストが手書きで制作することにより、キャラクターの表情や動き、背景のディテールなど、表現力豊かなものを作ることができます。
4,歴史的な重要性
・セル画はアニメーション制作において非常に重要な役割を果たしてきました。多くのアニメがこの手法で制作されてきたため、セル画は歴史的に重要な意味を持っています。
5,制作プロセスの効率向上
・セル画の制作プロセスにおいて、背景やキャラクターの各部分を分けて描くことができるため、アニメーションの制作を効率敵に行うことができます。これにより、大量生産や連続した動きの表現を簡単にできるようになりました。
セル画のデメリット
1,労力と手間
・セル画の制作は手作業であり、1枚ずつセルに描いていくため、非常に手間と時間がかかります。特に複雑なアニメーションや長尺の映像を制作する場合、多くの作業時間を必要とします。
2,制作コスト
・セル画の制作には、セルや絵の具、ペイント、専用のアートボードなど物理的な資材が必要になってきます。これにより、制作コストがかさむことがあります。
3,修正が難しい
・セルに描いた絵は基本的にやり直しがききません。なにか間違ってしまった場合に修正するのが難しい場合があります。修正が必要な場合、そのセル全体をやり直すか、別のセルに新しく描き直す必要があります。
4,制作プロセスの複雑性
・セル画の制作は多くの工程を経るため、複雑性が高いと言われています。セルの塗り分け、重ね合わせ、撮影など、各段階で慎重な作業が求められます。
5,リアルな光や影の表現が難しい
・セル画では、リアルな光の表現や影の描写が難しく、光や影を再現するためには高度な技術と手間がかかります。これに対してデジタル画ではこの問題が解決されており、比較的に容易に再現することができるようになりました。
6,制限された色の使用
・セル画では、セルごとに色を塗り分ける必要があり、これにより限られた色しか使用できないこともあったようです。一方でデジタル画では幅広い色彩を使用することができるようになり、この部分でもデジタル画の移行により問題が解決されたと言っても良いでしょう。
デジタル画のメリット
1,修正や編集の容易性
・デジタルアニメでは、描かれた線や色を簡単に修正・編集することができます。手軽に取り消し機能を利用したり、レイヤーを使用して細かい調整を行ったりすることができます。これにより制作プロセスが格段に上がります。
2,コスト削減
・デジタルアニメは、紙やセル、インク、ペイントなどの物理的な資材が必要ありません。これにより、制作コストが削減されるだけでなく、素材の費用や保管・管理にかかる手間も少なくなっています。
3,タイムライン上での効率的な作業
・デジタルアニメーション制作ではクリエイターがシーンやキャラクターの動きを直感的に動かせるようになりました。アニメーションのタイムライン上での作業が容易になり、タイミングの微調整やアニメーションの組み立てを迅速に行うことができるようになります。
4,多彩なツールとエフェクト
・デジタルアニメーションでは様々なツールや特殊効果を使うことができます。これにより、豊富な表現手段を利用することができ、質の高い視覚的な効果を生み出すことができます。
5,オンライン共有とデジタル配信
・デジタルアニメはデジタル形式で制作されるため、オンラインで簡単に共有や配信が可能となりました。これにより、作品をより効果的にプロモーションできるようになったり視聴者へのアクセスが格段に向上しました。
6,再利用性とバージョン管理
・デジタルアニメーションでは、アセットやキャラクターモデル、背景などを再利用しやすくなります。バージョン管理が簡単に行えるため、制作の過程での変更や修正も管理しやすくなります。
デジタル画のデメリット
1,初期投資とソフトウェアのコスト
・デジタルアニメーションには専用のハードウェアやソフトウェアが必要であり、これには一定の初期投資が必要です。高品質なデジタルアニメーションソフトウェアやツールは高価であり、これらの費用がプロジェクトの予算を圧迫することがあります。
2,学習の必要と専門知識の要求
・デジタルアニメーションソフトウェアの捜査や機能をマスターするには学習が必要であり、これに時間と労力がかかります。また、専門的な知識やスキルが必要であるため、これを身につけるためのトレーニングや経験も必要です。
3,画の失われた感触
・セル画では手描きや手作業が必須だったため、アーティストの手の感触や個性が作品にそのまま反映されます。デジタル画はコンピュータ上で行われるため、この手作業感が失われると感じる人もいます。
4,過度なデジタル化への懸念
・一部のアーティストや我々一般的な視聴者の一部には、デジタルアートやデジタルアニメが過度に洗練されることに懸念を抱いている者もいます。アートのデジタル化により、一部の作品が似通ったものとなり、個性が希薄になる可能性があります。
セル画からデジタル画に移行するまでの歴史
では、次にセル画の歴史をみていきましょう。
1 初期のアニメーション(1900年代初頭-1920年代)
最初期のアニメーションは、黒板や粉末など実験的な手法からスタートしました。手描きや切り絵を用いた短編アニメーションが登場しましたが、まだアニメーション制作の手法は確率されていませんでした。その中でもアニメーションの技法としてセルを使った重ね合わせを初めて行ったのは1914年、アメリカのジョン・ランドルフ・ブレイが世界初とされています。
セル画の導入(1920年代-1930年代)
1920年代になると、セルロイド製の透明なセルの導入により、アニメーション制作が大きく飛躍します。これにより、背景やキャラクターを分けて描くことが可能になり、アニメーションの効率が向上しました。
1927年に大藤信郎が影絵アニメ「鯨」の一部で使ったものが日本初のセルアニメとされています。
テクニカラーの登場(1930年代-1940年代)
1930年代には、テクニカラーといったカラーフィルムの導入が始まり、アニメーションにおいてもカラーが一般的になりました。これにより、アニメーション作品はより鮮やかな表現が可能になりました。
テクニカラーというのは20世紀初頭にアメリカで導入された映画技術のことでカラー映画の黄金時代に大きな役割を果たしました。初めてテクニカラーが用いられた映画は1935年の「ビッグ・パレード」です。これはアメリカの戦争映画なのですが、後の「西部戦線異状なし」などの後年の戦争映画に影響を与えています。
制作体制の確率(1940年代-1950年代)
この年代になるとセル画の制作プロセスが確率され、アニメーション制作が商業的に成熟しました。多くのスタジオが登場し、キャラクターのデザインや制作手法が洗練されました。
日本では1943年に初のフルセルアニメーション「くもとちゅうりっぷ」が正岡憲三により制作されました。この当時は太平洋戦争中だったので戦時色の強い内容のアニメーションが普及します。瀬尾光世の「桃太郎の海鷲」(1942年)、「桃太郎 海の神兵」(1944年)などが制作されました。
TVアニメの黎明期(1960年代-1970年代)
この時代になると、TVアニメが台頭し、セル画は大量生産が求められました。これにより、制作スピードの工場やコストの削減が可能になり、アニメがますますポピュラーなものになっていきます。
デジタル技術の導入(1980年代以降)
1980年代から1990年代にかけて、デジタル技術の進歩がセル画の手法に変化をもたらしていきました。デジタルアニメーションの導入により、セル画の使用が次第に減少していきました。1990年代に入ると、セルアニメーション用のセルが生産中止となり、着色用の塗料も入手が困難になったことから急速にデジタルアニメーションが普及していきました。
デジタル時代への移行(2000年代以降)
現代では、ほとんどのアニメーション制作がデジタル技術を用いて作られています。2000年代初頭には3DCGを従来のアニメのように見せる「トゥーン・レンダリング」という技術が登場しました。日本では3DCGのアニメーションは違和感が出てしまう作品も多く、部分的に取り入れられている作品が多い印象です。
まとめ
いかがだったでしょうか。現在はデジタル画が主流となっていますが、まだセル画のデメリットを全部デジタル画が補えてはいないようです。ただそれも徐々に解消されていっているようなのでセル画はこれから益々使われなくなってしまうのでしょうね。個人的には、セル画で描かれたアニメはすごく好きです。ただクリエイターさんの労力とかを考えると、費用対効果が見合わないのでしょうね・・・デジタル画もこれから更に進化していくでしょうし、セル画みたいな表現をデジタル画でできるようになったら個人的には嬉しいです。では、また次回。
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